マリオネット 私が殺された日
나를 기억해/Marionette
2017年 韓国
監督:イ・ハンウク
出演:イ・ユヨン、キム・ヒウォン、キム・サンギョン、キム・ガンウ、キム・ヒエ、他
こちらも「未体験ゾーンの映画たち2019」で上映されていた作品です。
そして、WOWOWで「韓国サスペンス一挙放送」と称して、
7本ほど新作を連続放送してくれていまして…その中の1本です。
きっつい映画でした…
主人公は高校生時代に同級生たちから集団暴行にあっていて、
その傷を背負いながらも、名前を変えて高校教師として生活しています。
穏やかに生活していたと思いきや、
「マスター」と名乗る謎の人物からメッセージが届き、
高校生の頃を思い出させる様な出来事が身の回りで起きて、
追い詰められていく…というのがざっくりしたプロット。
いわゆる「セカンドレイプ」や「少年犯罪」「情報社会の恐ろしさ」
みたいなものがテーマになりつつ、
それをスリリングに描いているという感じでしょうか。
映画冒頭、「実話を基にしたフィクション」というテロップが入るのですが
劇中に登場する「マリオネット事件」自体は存在しない様です。
が、同様の事件は複数あった様で、
そういった事件をいくつかミックスして
ストーリーとして膨らましているのかな。
そりゃ、実話をまんま映画化したら、
それが最も大きなセカンドレイプになりますもんね…
被害者が許可する訳ないわ。
映画の作りとしては、高校生時代と現在とが交互に描かれていくスタイル。
特に説明はないのですが、
よーく見ると、街並みや高校生たちのメイクが微妙に古かったりして、
あ、時代が違うのか、と気付きます。
高校生時代の主人公、ミナを演じていたのはキム・ダミ。
「The Witch 魔女」のイメージが強いですが、今回は普通の明るい女子高生。
笑顔がかわいらしかったなあ。
だからこそ、暴行後との落差が激しくてより辛い。
大人になってからの主人公を演じるのは、イ・ユヨン。
名前を変えてまで過去を断ち切ろうとしたのに
また追い詰められてしまう姿は、
彼女の消えてしまいそうな雰囲気も相まって、かなり痛々しい。
かと思えば、生徒の為に夜の街へ尾行へ行ったり意外な一面も。
早く警察に行けばいいじゃん…とも思ったりしたけど、
一度、裏切られているという不信感
(学生時代の事件の時は、マスコミに情報が漏れた)と、
また世に出回ったら…という恐怖から、
自分で解決しようとしてしまうんでしょうね…
それに、こういう映画を見て「警察に行けばいいじゃん」という思考になるのは
こういう暴行事件が身近にない人間の思考だなあ、とつくづく痛感。
私は有難い事に、人生で一度もそういう危険に陥った事がないですし、
幸運にも、セクハラの類もされた経験はないので、
だからこそ、安直に考えてしまうんだなあ、と…
描写に関していえば、韓国ノワールあるある…
「暴行」「エログロ」をはっきりと描写する傾向にありますが
今回の「マリオネット」は比較的、控えめです。
当然っちゃ当然かもしれませんが、
暴行シーンをはっきり描写する映画も多々あるじゃないですか…
「トガニ」とか…「オールドボーイ」とか…
そういう意味では、ギリギリで描写しない事で
変な想像力をかきたてられてしまい、辛くなる。
映画の落とし所としては、「すっきりしない」「拍子抜け」という意見も
かなり多い様ですが、
私としてはこれで良かったと思うし、これしかなかったんじゃないかなと思います。
韓国の法律では、少年犯罪を裁く事が難しいらしく、
罪を犯しても野放しになってしまう事も多い=凶悪犯罪の増加、
という図式に不甲斐なさを感じるのは、きっと現実でもそうでしょうし。
被害者側は、「犯人が逮捕されたから、はいオッケー」とはならない。
実際の被害者たちは、この映画を見終わった様に、
どんよりと後味の悪いまま、ずっと歩んでいかないといけないのかもしれない。
なんだか、色々と考えさせられる映画でした…